ネットワークスペシャリスト試験では、冗長化技術の理解が求められます。

冗長化はネットワークの信頼性を高めるのに役立つ技術でしたね。
その中でもVRRP(Virtual Router Redundancy Protocol)は、ネットワークを安定して使えるようにする重要なプロトコルの一つです。
この記事では、VRRPの基本概念や動作の仕組み、メリットを丁寧に解説していきます。
VRRP(Virtual Router Redundancy Protocol)について
VRRP(Virtual Router Redundancy Protocol)は、ネットワークの冗長性を確保するためのプロトコルです。
複数のルータを1台のように見せかける仕組みを持ち、これを「仮想ルータ」と呼びます。





上の図の場合、「192.168.1.1」の物理ルータと「192.168.1.2」の物理ルータがありますが、「192.168.1.3」の仮想ルータが1台だけあるように見せかけています。



どうして2台のルータをそのまま繋がないのですか?



デフォルトゲートウェイとなれるルータは1台だけでしたね?



あっ、そうですね、2台のルータがあるとパソコンが困っちゃいますね。



だから1台の「仮想」ルータを作るんですね。



そういうことです。
仮想ルータは、ネットワークが途切れずに使えるようにするための仕組みで、特定のルータが故障しても他のルータが自動的に代わりを務めることで、通信を維持できます。





このように1台のマスタルータと(複数の)バックアップルータがあり、通常時はマスタルータとやりとりをしています。
VRRPでは、仮想IPアドレスと仮想MACアドレスはマスタルータに設定されます。
マスタルータがダウンすると、バックアップルータが新しいマスタルータに昇格し、同じ仮想IPアドレスと仮想MACアドレスを引き継ぎます。
これにより、クライアント側の設定を変更することなく、シームレスに通信を継続できるのです。



VRRPでも「マスタ」と「バックアップ」があるのですね。



そうなのです。ここからはマスタルータとバックアップルータについて、詳しく見ていきましょう。
マスタルータとバックアップルータ
VRRPでは、複数のルータをグループ化し、その中の1つを「マスタルータ」とし、残りを「バックアップルータ」として設定します。
これらのルータは共通のVRID(Virtual Router Identifier)を持ち、仮想ルータとして機能します。
VRID(仮想ルータ識別子)は、VRRPにおいて仮想ルータを識別するための番号です。
VRRPを構成するルータグループは、1つのVRIDを共有し、この番号によってネットワーク内の複数のVRRPグループを区別します。
通常時にパケットの転送を担当し、仮想IPアドレスと仮想MACアドレスをクライアントに提供する役割を担います。
マスタルータが正常に動作している間、全てのトラフィックはこのルータを経由して処理されます。
マスタルータがダウンした際に、自動的に代替ルータとして機能します。
バックアップルータは通常、マスタの状態を監視し、異常が検知されるとVRRPの優先度(Priority)に基づいて新しいマスタルータとして昇格します。
VRRPの優先度(Priority)は、どのルータがマスタルータになるかを決める基準です。
優先度は0~255の範囲で設定でき、数値が大きいほど優先的にマスタルータとして選出されます。



デフォルト値は100ですが、ネットワークの設計に応じて調整可能です。
VRRP広告とは?
VRRPでは、マスタルータが自分の状態をバックアップルータに通知するためにVRRP広告(VRRP Advertisement)を定期的に送信します。
この広告メッセージには、以下の情報が含まれます。
- VRID(仮想ルータ識別子)
- 優先度(Priority)
- マスタルータの仮想IPアドレス
マスタルータは、通常1秒ごとにVRRP広告を送信し続けます。
バックアップルータはこの広告を受信し続けることで、マスタルータが正常に動作しているかを確認します。



これもネットワークの安定性を高める大切な仕組みですね!
もし一定時間(デフォルトでは3秒)VRRP広告が受信されなければ、バックアップルータはマスタルータの障害と判断し、新しいマスタルータへと昇格します。



この仕組みにより、障害時でもネットワークの継続的な運用が可能となり、通信の安定性が確保されるのです。
VRRPでは、クライアントが常に同じ仮想IPアドレスをデフォルトゲートウェイとして利用できるようになっています。
また、仮想MACアドレスも設定されるため、マスタルータの切り替えが発生しても、クライアントのARPテーブルを更新せずにスムーズに通信が継続できます。
この仕組みにより、ネットワークの可用性が向上し、デフォルトゲートウェイの変更なしに安定した接続を実現できるのです。
複数の仮想ルータ
同じ物理ルータを使って、複数の仮想ルータを作ることも可能です。





たとえばこのように、同じ物理ルータに異なるVRIDを設定することで、複数の仮想ルータを構築することもできます。



使われているルータはどっちも「192.168.1.1」と「192.168.1.2」のルータですが、マスタとバックアップが入れ替わっていますね。



ちょっとややこしいですね(汗)



シンプルに表現してみると、下の図のようになります。





同じ物理ルータが、複数の仮想ルータを構成しているということがわかりやすくなりました!



でもこうして見てみると、同じ物理ルータなのに複数の仮想ルータを作る必要性がよくわからないです。
これらの仮想ルータにパソコンを接続してみた時にどうなるかを見てみましょう。


左のパソコンは仮想ルータ「192.168.1.3」に接続され、右のパソコンは「192.168.1.4」の仮想ルータに接続されます。
この場合、通常時には左のパソコンは「192.168.1.1」のマスタルータとやりとりをし、右のパソコンは「192.168.1.2」とやりとりをするため、負荷分散が可能になります。



複数の仮想ルータを作って、別々のマスタルータを設定することでネットワークの負荷分散ができるんですね!



しかもマスタルータに障害が発生したら、自動的にバックアップルータに接続が切り替わるから、ネットワークが途切れることもないですね!



それぞれのパソコンを直接物理ルータに接続するよりも通信が安定することがわかったみたいですね。
VRRPトリガーとは?
VRRPトリガーとは、VRRPのフェイルオーバー(切り替え)が発生する原因となるイベントのことです。主に以下のようなトリガーがあります。
- VRRP広告の途絶: マスタルータは定期的にVRRP広告を送信し、正常な動作を通知します。この広告が一定時間(デフォルトでは3秒間)受信されなくなると、バックアップルータはマスタルータの障害を検知し、新しいマスタルータに昇格します。
- インターフェースの障害: マスタルータのネットワークインタフェースがダウンすると、バックアップルータがフェイルオーバーを実行し、通信を維持します。
- ルータの電源障害: マスタルータの電源が落ちた場合、バックアップルータが自動的に昇格し、ネットワークの断絶を防ぎます。
- 経路の喪失(ルーティングの変化): ルータが特定の経路を学習できなくなると、VRRPのフェイルオーバーが発生することがあります。
- 管理者による手動切り替え: ネットワーク管理者が意図的にVRRP設定を変更し、バックアップルータをマスタルータに昇格させることも可能です。
このように、VRRPトリガーによってネットワークの安定性を維持し、途切れることなく通信を継続できる仕組みになっています。


このような仮想ルータを例に考えてみましょう。


左のルータの上側のインタフェースが故障したとします。



上側のインタフェースだけが故障しているので、下側では正常に動作していると認識されちゃっていますね。どうなるんでしょう?





この仮想ルータに、上図のようにパソコンが接続されていたとします。



上のパソコンにとってのマスタルータは右に設定されているので、故障箇所を避けて通信ができていますね。



でも下のパソコンにとってはどうなんでしょう……?





ああっ、下のパソコンにとってはマスタルータが左だったため、故障したインターフェースの部分で通信が途切れてしまっていますね。



これでは通信ができないため、左のルータのプライオリティを下げてあげます。


左のルータのプライオリティが下がり、下のパソコンにとってもマスタルータは右になりました。
これで無事に通信をすることができます。



これがVRRPトリガーの流れです。
まとめ
VRRPは、ネットワークの可用性を高めるために欠かせないプロトコルです。
シンプルな設定で冗長化を実現できるため、多くの企業やデータセンターで活用されています。



このプロトコルを導入することで、障害時の影響を最小限に抑え、ネットワークの安定性を確保できます。
仮想IPアドレスと仮想MACアドレスを活用することで、クライアント側の設定変更なしにスムーズなフェイルオーバーが可能となります。



障害発生時にいちいち手動でルータを切り替える必要がないのはすごく便利ですね!
VRRPは標準プロトコルであり、異なるメーカーの機器間でも導入しやすい点が強みです。
また、VRRPの効果を最大限に発揮するためには、優先度の適切な設定やトリガーの管理が重要です。
特に、VRRP広告の途絶やインタフェースの障害といった要因を考慮した設計を行うことで、より強固なネットワークを構築できます。
ネットワークスペシャリスト試験の対策としても、VRRPの基本的な仕組みや設定方法を理解することは欠かせません。



試験では、VRRPの動作原理やフェイルオーバーのトリガーに関する問題が出題されることが多いため、実際の設定例を交えて学習を進めるとよいでしょう。
VRRPの活用により、企業ネットワークの信頼性を高め、システムダウンによるリスクを軽減できます。
今後もネットワーク技術が進化し、より高度な冗長化技術が求められる中で、VRRPをしっかりと理解し、適切に活用できるスキルを身につけることが重要です。