電子メールは、インターネットを介して情報をやり取りする基本的な通信手段です。
普段私たちが使っているメールソフトの背後では、いくつものサーバやプロトコルが連携してメールを送受信しています。

メールソフトで簡単に送受信していたけれど、その背後には様々なサーバやプロトコルが動いていたんですね。
メールの仕組みを理解することで、トラブルの原因を的確に把握できるようになり、より安全かつ効率的な運用が可能になります。
ネットワーク管理者や情報システム担当者はもちろん、一般ユーザーにとっても、知っておくことで大きな武器になる知識です。
メールは日常業務に欠かせないインフラ。その仕組みに少しでも詳しくなることは、ITリテラシーの向上にもつながります。



ぜひ、しっかり学んでください。
電子メールの送受信の仕組み
電子メールは、「送信」「転送」「受信」という3つの基本的な段階で構成されており、それぞれに異なるプロトコルとソフトウェアが関与しています。
これらの仕組みは、私たちが意識することなく日常的に行っているメールのやり取りを支えており、通信技術として極めて重要な役割を果たしています。
メール送信の仕組み
まず、ユーザーが作成したメールは、SMTP(Simple Mail Transfer Protocol)というプロトコルによって送信されます。
SMTPはメールの送信に加え、サーバ間でメールを中継・転送する役割も担う重要な通信手段です。


ユーザーが使うメールソフト(MUA:Mail User Agent)から送信されたメールは、まず送信サーバ(MSA:Mail Submission Agent)に届けられます。
MUA(Mail User Agent)とは、ユーザーが直接操作するメールソフトやアプリのことです。たとえば、Outlook、Thunderbird、iPhoneの「メール」アプリ、GmailなどがMUAに該当します。
MSA(Mail Submission Agent)とは、メール送信の最初のステップを担うサーバです。
ユーザーがメールソフト(MUA)で作成したメールを送信すると、最初にこのMSAが受け取ります。役割としては、
- ユーザーからのメールを受け取る
- 認証情報を確認する
- メール形式を整形する
- 次の中継先(MTA)に転送する
といった処理を行います。
MSAは、メールの宛先ドメイン部分に着目し、DNS(Domain Name System)サーバに対して問い合わせを行います。


このとき、MSAは宛先ドメインに対応するMX(Mail Exchange)レコードをDNSから取得し、実際にメールを受け取るべきメールサーバのホスト名(FQDN)を確認します。
次に、そのFQDNに対応するIPアドレスをAレコードやAAAAレコードで解決し、通信相手のメールサーバが特定されます。


得られた情報をもとに、MSAからMTA(Mail Transfer Agent)にメールが渡され、そこから宛先のドメインのメールサーバへと順次配送されていきます。
MTA(Mail Transfer Agent)とは、メールを中継して届けるサーバのことです。
たとえば、あなたがメールを送ったとき、MTAはそのメールを受け取り、宛先のドメインに向けて中継(転送)してくれます。宛先のメールサーバが見つかるまで、必要ならいくつかのMTAを経由して最終的に届けます。


途中で複数のMTAが中継することもあり、インターネットを通じて確実に目的地に届くよう構成されています。
メール受信の仕組み
一方、メールを受け取る際にはPOPまたはIMAPという受信用のプロトコルが用いられます。


POP(Post Office Protocol)は、受信したメールをローカル端末にダウンロードして保存する仕組みで、特に一台の端末でメールを管理する場合に適しています。



POPの最新バージョンは3で、POP3と呼ばれています。
受信後は通常サーバから削除されるため、サーバの保存容量を節約できるメリットがあります。
これに対してIMAP(Internet Message Access Protocol)は、メールをサーバに残したまま複数の端末から同期して閲覧・管理することができ、スマートフォンやノートパソコンなど複数のデバイスを使う現代的な利用形態に適応した方式です。



IMAPの最新バージョンは4で、IMAP4と呼ばれています。
SMTP
SMTP(Simple Mail Transfer Protocol)は、電子メールを送信したり、サーバ間で中継・転送するための通信プロトコルです。
SMTPは「押し出し型」のプロトコルであり、基本的には送信側から能動的に接続を開始し、相手のサーバにメールを渡す方式を取ります。



このため、受信者側が明示的に受信要求を出すことはなく、SMTPは「送信専用」のプロトコルといえます。
SMTPは、メールのヘッダーや本文などの情報をテキスト形式で送信し、標準ではポート25番が使われますが、一般的なメール送信ではポート587(認証付き)またはポート465(暗号化通信)も多く使用されます。
また、SMTP通信は改ざん防止や盗聴対策のため、TLSなどの暗号化技術と併用されることが推奨されています。
このプロトコルは、ユーザーのMUAからMSAへの通信、またはMTA間での通信において使用され、メールの配信における要となる技術です。
SMTP通信では、クライアントとサーバが一連のコマンドとそれに対する応答(リプライ)を交わすことで、メールの送信処理が進行します。
まずはSMTPセッションで頻繁に使用される主要なコマンドを見てみましょう。
コマンド | 説明 | 主な使用タイミング |
---|---|---|
HELO または EHLO | 接続開始時にクライアントが自ホスト名を通知 | 通信開始直後 |
MAIL FROM: | 送信者のメールアドレスを指定 | メール送信の開始 |
RCPT TO: | 宛先のメールアドレスを指定 | 宛先指定時 |
DATA | メール本文の送信開始を宣言 | ヘッダーと本文送信前 |
QUIT | セッションの終了 | メール送信後、接続終了時 |
RSET | セッションの状態を初期化 | エラー発生時のリセット |
VRFY | 指定したユーザーが存在するか確認 | ユーザー確認(使用は非推奨) |
NOOP | 何もせず応答のみを確認 | 接続維持など |
続いて、リプライコードについてもまとめて見てみます。
リプライコード | 意味 | 状況 |
220 | サーバ準備完了 | 接続受理時 |
250 | 処理成功 | コマンド実行成功時(HELOやMAIL FROMなど) |
354 | データ送信開始可能 | DATA 後、本文入力を促す時 |
421 | サーバサービス停止 | 接続を切断する場合など |
450 | メール一時受け入れ不能 | 一時的な宛先エラー |
550 | メール配信失敗 | 宛先が存在しない、拒否された場合 |
500 | 構文エラー | 無効なコマンド送信時 |
503 | コマンド順序エラー | 順序不正(MAILより前にRCPTなど) |
これらのコマンドと応答コードを理解することで、SMTPセッションの流れやトラブルの原因を把握しやすくなります。



SMTPでのメール送信の流れを図でも見てみましょう。


SMTPを使用したメール送信のプロセスでは、クライアント(通常はMUA)がSMTPサーバに対して一連のコマンドを送信し、それに対してサーバが応答するという手順で進みます。
- HELO / EHLOコマンド:
- クライアントがサーバに最初に送信するコマンドで、自ホスト名を伝え、通信の開始を知らせます。
- 現在は拡張機能の確認もできる
EHLO
の使用が一般的です。
- MAIL FROMコマンド:
- 送信者のメールアドレスを指定するコマンドです。
- メールの送信を開始する意図を示し、サーバはこれを受け取って受信準備をします。
- RCPT TOコマンド:
- 宛先のメールアドレスを指定します。
- 複数の宛先がある場合には、このコマンドを複数回使用することも可能です。
- DATAコマンド:
- メール本文およびヘッダーの送信を開始します。
- サーバが
354
を返して準備完了を示した後、クライアントは本文を送信し、最後に.
(ピリオド単独)で終了を示します。
これらの一連のコマンドにより、SMTPはメールの送信と配送を行います。
POP
POP(Post Office Protocol )は、メール受信に特化したプロトコルで、サーバ上のメールをユーザーのローカル端末にダウンロードする仕組みです。
一般的に、一台のデバイスでメールを管理したいユーザーに向いており、受信後はサーバ上のメールが削除されるのが標準的な動作となります。



そのため、オフライン環境でもメールの閲覧が可能で、通信量を抑えながら利用できる利点があります。
POPはシンプルな構造で、サーバからメールを取得して保存することに特化しているため、通信量やサーバ負荷を抑えやすい特徴があります。
企業などで多数のユーザーが同時にアクセスする環境では、サーバの負荷を軽減する手段として有効です。
また、取得したメールは端末側に保存されるため、バックアップの取り方次第で長期的な保管にも適しています。
使用されるポート番号は標準で110番ですが、セキュリティを強化した通信が求められる場面では、SSL/TLSによる暗号化通信に対応したポート995が使用されます。



これにより、インターネット上での通信内容の盗聴や改ざんを防ぎ、安全なメール受信が可能となります。
一方で、POPは複数の端末での同期には不向きであり、スマートフォン・PC・タブレットなどを併用するユーザーにとっては制限があります。
たとえば、一つの端末で受信したメールが他の端末では見られなくなるため、場所やデバイスを問わずメールを扱いたい場合には不便に感じることもあるでしょう。
そのため、POPの特性を理解した上で、利用環境に適したプロトコルを選ぶことが重要です。



POPでのメール送信の流れも見てみましょう。


POPを使ったメールの受信は、クライアントがサーバに接続してメールを取得するという「引き出し型」の方式です。
- 接続の確立(AUTH):
- クライアントはサーバにTCP接続(通常はポート110、暗号化通信では995)を行います。
- 接続後、
USER
コマンドでユーザー名、PASS
コマンドでパスワードを送信して認証を行います。
- メールの一覧取得と選択(TRANSACTION):
STAT
コマンドでサーバ上のメッセージ数と総容量を確認。LIST
コマンドで各メールのサイズを一覧取得。RETR
コマンドで指定した番号のメールをダウンロードします。- 必要に応じて
TOP
コマンドでヘッダーや一部の本文のみ取得することも可能です。
- 削除と切断(UPDATE):
- クライアントが
DELE
コマンドを使うことで、サーバ上のメールを削除対象としてマークできます。 - 最後に
QUIT
コマンドを送ると、サーバは削除対象のメールを完全に消去し、セッションを終了します。
- クライアントが
このように、POPではシンプルな一連のコマンドにより、必要なメールだけを選んでダウンロードし、オフラインでの閲覧が可能な点が大きな特徴です。
IMAP
IMAP(Internet Message Access Protocol)は、サーバ上のメールをそのままにしておきながら、複数の端末から同時にアクセス・管理することができる受信用プロトコルです。
POPとは異なり、ローカル端末にダウンロードするのではなく、メールをサーバ上で管理することを前提としているため、スマートフォン・タブレット・PCなど複数のデバイスで同一のメールボックスを操作できるのが特徴です。



IMAPは、フォルダ機能や検索機能、既読・未読ステータスの保持、フラグの付与など高度な管理機能を備えており、ビジネス利用やクラウド環境との親和性が高い点が評価されています。
使用されるポート番号は通常143番、SSL/TLSによる暗号化通信の場合は993番が利用されます。
IMAPでは、メール本文や添付ファイルも必要に応じてその都度読み込むため、サーバ上での操作が基本となり、端末側には完全なデータを保存しないことも多く、セキュリティ上の利点もあります。
ただし、サーバ容量の制限には注意が必要であり、定期的な整理やアーカイブの運用も重要です。
まとめ
電子メールの送受信には、MUA、MTA、MSA、MXサーバなど複数の役割が連携して動いています。
それぞれが特定のプロトコル(SMTP、POP、IMAP)を用いて通信し、私たちが簡単にメールをやり取りできる環境を支えています。



これらの仕組みを理解することで、メールトラブル時の原因特定や、より適切な設定・運用が可能になります。
また、セキュリティ対策を講じるうえでも、メールの流れや関係するソフトウェアの理解は欠かせません。
フィッシングメールやスパム対策、暗号化設定など、日常のメール利用における判断力を高めるうえでも、基礎知識の有無は大きな違いを生みます。
情報社会のインフラである電子メールを、安全かつ快適に活用するために、その仕組みに対する理解を深めていきましょう。