イーサネットは、ネットワークインターフェース層の標準的な通信手段・プロトコルです。
イーサネットはそのシンプルさと高い拡張性によって、企業から個人の家庭まで、さまざまなネットワーク環境で利用されています。
ネットワークスペシャリスト試験においてもイーサネットの基本的な仕組みや進化について深い理解が求められるため、この技術の全体像を把握することは非常に重要です。

じっくり丁寧に学びましょう。
この記事では、イーサネットの歴史や基本的な仕組み、そして代表的な規格について丁寧に解説します。
イーサネットの知識をしっかりと身につけることで、ネットワークスペシャリスト試験の対策に大きく役立てることができるでしょう。
イーサネットとは
イーサネットは、ネットワークインターフェース層(OSI参照モデルの第2層であるデータリンク層の一部)における標準的な通信方式の一つです。
この層では、データをフレームという単位に分けて転送し、ノード間で効率的に通信を行います。
具体的には、MACアドレスを使用してネットワーク内のノードを一意に識別し、データが正しい送信先に届くようにしているのです。
加えて、イーサネットにはコリジョンドメインとブロードキャストドメインの概念があり、これらはイーサネットのネットワーク設計において重要な要素となります。
※コリジョンドメイン…同じネットワーク内で複数のノードが同時にデータを送信しようとしたときに衝突(コリジョン)が発生する範囲のことです。
イーサネットの初期のバージョン(例えばハブを使用するネットワークや後述する半二重通信)では、複数のノードが共有する通信路があり、同時にデータを送信すると衝突が発生し、データが再送される必要がありました。
スイッチの導入によって、各ポートが独立したコリジョンドメインとなり、衝突の問題が解消されました。
※ブロードキャストドメイン…ネットワーク内で送信されたブロードキャストフレーム(全ノード宛のデータ)が届く範囲のことです。
ブロードキャストフレームはネットワーク内のすべてのノードに届けられるため、ネットワーク規模が大きくなるとブロードキャストトラフィックが増加し、ネットワークのパフォーマンスに影響を与えることがあります。
通常、ルータがブロードキャストドメインを分割する役割を持ちます。
ネットワーク技術にはWi-FiやBluetooth、トークンリングなど他にも様々な種類がありますが、イーサネットは有線通信の中で最も広く利用され、基盤的なネットワーク技術として多くの環境で採用されています。
そのため、イーサネットを理解しておけば、ネットワークに関する基本的な知識としては充分でしょう。
イーサネットの成り立ち
イーサネットの成り立ちは、1970年代にゼロックスのパロアルト研究所で研究されたことに始まります。
その後、インテル、旧DEC(現在のヒューレット・パッカード)と共同で規格化が進められ、1980年には初期のイーサネット規格が正式に発表されました。
この共同作業により相互運用性が確保され、イーサネットは広く使われるネットワーク技術としての基盤を築くことができました。
イーサネットの規格
イーサネットの規格はIEEE(米国電気電子学会)において、IEEE802.3分科会で標準化されています。
IEEE802.3は物理層およびデータリンク層に関する仕様を定めており、この規格に基づくことで異なるベンダーの機器間でも互換性が保証されます。
このように、IEEE802.3規格に基づいてイーサネットは世界中で広く利用され、標準的な技術として定着しているのです。
イーサネットヘッダ
イーサネットヘッダは、同一ネットワーク上でデータを正しく送受信するために必要な情報を含む部分です。
簡単に言えば、データがどこから来てどこに向かうのか、そしてそのデータがどのプロトコルに基づいているのかを示すための情報が入っています。
イーサネットフレームの先頭にあるこのヘッダ部分は、フレームが目的地に正確に届くための指示書のような役割を果たします。
DIX規格とは
DIX規格とは、ゼロックス、インテル、旧DEC(現在のヒューレット・パッカード)によって最初に定義されたイーサネットの規格です。
DIX規格には、イーサネットフレーム内にEtherTypeフィールド(タイプ)という部分があり、このフィールドを使ってデータがどのプロトコル(通信方法)に基づいているかを識別します。



例えば、IPv4であれば0x0800、IPv6であれば0x86DDという番号を使ってデータの種類を示します。
これにより、受信側はデータの内容がどのプロトコルに基づいているのかをすぐに判断できるため、効率的に通信を進められます。
DIX規格のフレームフォーマットは下記のようになっています。


- プリアンブル(8バイト):イーサネットフレームの先頭にある同期パターンです。最初の7バイトは同期を確立するためのもので、最後の1バイトはSFD(スタートフレームデリミタ)としてフレームの開始を示します。
- 宛先MACアドレス(6バイト):データがどのノードに送られるべきかを示すアドレスです。
- 送信元MACアドレス(6バイト):データを送信したノードのアドレスです。
- タイプ(2バイト):上位層プロトコルを識別するためのフィールドで、データの内容がどのプロトコルに基づいているかを示します。
- データ(46〜1500バイト):実際のデータが含まれる部分で、上位層プロトコルのデータが格納されます。この部分は最低46バイト必要で、データが足りない場合はパディングで埋められます。
- FCS(フレームチェックシーケンス、4バイト):フレームの最後に付加され、データの送信中にエラーが発生していないかを確認するための検査コードです。
これらのフィールドによりイーサネットフレームがネットワーク内で正しく処理され、目的地に届くことが保証されるのです。
DIX規格は、シンプルで異なるベンダーの機器が簡単に互換性を持てるため、現在でも多くのネットワークで使用されています。
特に、インターネットプロトコル(IP)を使用するネットワークでは、DIX規格の使いやすさが評価されており、設定や管理がしやすいことから広く採用されています。
プリアンブルとは
プリアンブルは、イーサネットフレームの先頭にある8バイトのビットパターンです。
このうち、最初の7バイトは0と1が交互に並んだパターンになっており、これによって受信側のノードが同期を確立できます。



01010101……って並んでいるということですね。



その通りです。
この同期パターンは、送信元と受信側でデータの送信と受信のタイミングを合わせるために使われています。
受信側がこのビットパターンを読み取ることで、フレームの開始を適切に認識し、データを正しいタイミングで取り込む準備ができるのです。
最後の1バイトはSFD(スタートフレームデリミタ)と呼ばれ、これはフレームの本体が始まることを示します。
このSFDは「10101011」というビットパターンになっており、受信側がフレームのデータ部分の始まりを明確に認識するための信号です。
この仕組みがあることで、ネットワーク上のノイズや時間的なズレによってデータが正しく読み取れないリスクを軽減し、正確で効率的な通信が実現されています。
宛先MACアドレス/送信元MACアドレスとは
MACアドレスは48ビット(6バイト)の長さを持ち、ネットワーク内で一意に割り当てられるアドレスです。
通常、16進数で表され、例えば「00:14:22:01:23:45」のような形式になります。
この48ビットのMACアドレスは、前半の24ビットがOUI(Organizationally Unique Identifier)と呼ばれるもので、ノードの製造業者を特定します。



OUIはIEEEによって管理されています。
残りの後半24ビットは、その製造業者が各イーサネットインターフェースに固有に割り当てる番号です。
この構造により、世界中のどのネットワークノードでも一意のMACアドレスを持つことが保証されます。
宛先MACアドレスはフレームがどのノードに送られるべきかを示すアドレスです。これにより、フレームが正確に目的のノードに届くことが保証されます。
一方、送信元MACアドレスはフレームを送信したノードのアドレスです。
受信ノードが返答を送る場合や、ネットワークトラブルの際にどこからデータが来たのかを追跡するために使われます。
このように、宛先と送信元のMACアドレスを使って、ネットワーク内での正確なデータの通信が実現されているのです。
タイプ(EtherTypeフィールド)とは
このフィールドにより、受信側はフレームに含まれるデータがどのプロトコルで処理されるべきかを理解します。
例えば、IPv4、IPv6、ARPなど異なるプロトコルを識別するための値が格納されているのです。
これにより、ネットワーク機器は適切なプロトコルハンドラーにデータを渡し、通信がスムーズに行われるようにします。
代表例を見てみましょう。
タイプ(16進数表示) | 意味 |
0x0000~05DC | IEEE802.3規格のデータ長(DIX規格では未使用) |
0x05DD~05FF | 未使用 |
0x0800 | IPv4 |
0x86DD | IPv6 |
0x0806 | ARP |
0x8035 | RARP |
0x8100 | IEEE802.1Q(VLAN) |
0x8808 | IEEE802.3x(フロー制御) |
0x8809 | IEEE802.1ax,IEEE802.3ad(リングアグリケーション) |
0x8137 | PPPoE Discovery Stage |
0x8864 | PPPoE Session Stage |
データとは
データフィールドはフレーム内で最も重要な部分です。なぜならここに実際のデータ、つまりアプリケーション層のメッセージが含まれているからです。
もし実際のデータが46バイトに満たない場合は、フレームの最小サイズを確保するためにパディング(余分なデータ)を追加します。
パディングによりフレームサイズが一定以上に保たれることで、衝突検出の仕組みが適切に働き、ネットワークの安定性が向上するのです。
また、フレームのサイズにはMTU(Maximum Transmission Unit)という制限があります。
MTUは、ネットワークを通じて送信可能なデータの最大サイズを示しており、通常のイーサネットでは1500バイトに設定されています。



この制限を超えるデータを送信する場合、データは複数のフレームに分割されます。
FCS(フレームチェックシーケンス)とは
FCS(フレームチェックシーケンス)は、フレーム内にエラーがないかを確認するための検査コードです。
送信時にCRC(巡回冗長検査)アルゴリズムを使って計算され、フレームの最後に追加されます。
受信側は、FCSの値を使用してフレーム内のデータにエラーがないかを確認します。その際にもしエラーが見つかった場合、受信側は送信元に再送を要求します。
これによりデータの正確性が保証され、ネットワーク通信が信頼性を持って行われるのです。
特にノイズや干渉が発生しやすい環境では、このエラーチェックがデータの信頼性を保つ上で非常に重要です。
IEEE802.3規格とは
IEEE802.3規格は、1983年にIEEE(米国電気電子学会)によって標準化された、イーサネット通信に関するルールの一つです。
この規格では、EtherTypeフィールドの代わりに「長さフィールド」という部分が使われています。
長さフィールドはフレームに含まれるデータのサイズを示すもので、このフィールド自体ではデータの種類(プロトコル)を特定することはできません。
そのため、上位層でどのプロトコルが使用されているのかを識別するためには、追加のIEEE 802.2 LLC(Logical Link Control)ヘッダが必要です。


※例えば、DIX規格ではEtherTypeフィールドを使ってデータがどのプロトコルかをすぐに識別できるのに対し、IEEE802.3規格ではまずフレームの長さを確認し、その後でLLCヘッダを見てプロトコルを特定するという手順になります。このため、データの種類を把握するまでに余分な手間がかかり、フレームの構造が複雑になります。
IEEE802.3規格には、ネットワークの信頼性を高め、異なるメーカーの機器間での互換性を確保するために多くの規定が設けられています。
この信頼性を確保するための追加の手順(LLCヘッダなど)は、データを正確にやり取りするために役立っていますが、DIX規格と比べると余分なデータが増えるため、フレームの大きさが増し、データ転送速度に影響を及ぼす可能性が否定できません。
しかしこのIEEE802.3規格は、特に企業ネットワークや公式な環境でよく使われています。
こうした環境では、信頼性が非常に重要であるため、多少の複雑さがあっても安定した通信を実現することが求められるためです。
この標準化された形式により、異なる種類やメーカーのネットワーク機器でもスムーズに通信できるようになっており、複雑なネットワーク環境での相互運用性を確保しています。
IEEE802委員会とは
IEEE802委員会は、コンピュータネットワークの標準化に取り組むIEEE(米国電気電子技術者協会)の一部門であり、ネットワーク技術の相互接続性を確保するための規格を策定しています。
具体的な活動内容は、異なるメーカーのネットワーク機器がスムーズに連携し、安定した通信を実現するための技術基準を策定することです。
IEEEは世界中の技術者や研究者によって構成される組織で、電気・電子工学やコンピュータ技術などの分野における技術の進歩と標準化を推進しています。
IEEE802委員会の役割
IEEE802委員会は、主にローカルエリアネットワーク(LAN)やメトロポリタンエリアネットワーク(MAN)の標準化を目的としています。
委員会は、複数の分科会に分かれており、それぞれの分科会が異なる通信技術に関する標準を策定しています。
具体的には、以下のような分科会が存在します。
IEEE802.3(イーサネット)
IEEE802.3は、イーサネットの標準を策定する分科会です。
イーサネットは、現在最も一般的に使用されている有線LAN技術であり、家庭や企業のネットワークで広く使われています。



詳しくはこの記事の最初の段落を復習してみてください。
IEEE802.11(無線LAN)
IEEE802.11は、無線LAN(Wi-Fi)の標準を策定する分科会です。
この規格に基づいて、私たちが日常的に使用しているWi-Fiネットワークが動作しています。
IEEE802.11では、無線を用いたデータ通信の仕組みや、セキュリティ、周波数帯域の使用方法などが定義されています。
Wi-Fiルータやスマートフォン、ノートパソコンなど多くのノードがこの規格を基に互換性を持つため、無線通信が可能になっているのです。
IEEE802.1(ネットワークアーキテクチャ)
IEEE802.1は、ネットワークアーキテクチャやブリッジング、ネットワークのセキュリティといった部分の標準を策定する分科会です。
IEEE802.1の規格では、異なるネットワークセグメント間の通信を管理するためのルールや、ネットワーク全体のセキュリティを向上させるための技術が定められています。
例えば、VLAN(仮想LAN)の設定や、ネットワーク内での優先順位付けのためのQoS(Quality of Service)に関する基準などが含まれます。
半二重通信と全二重通信
ネットワーク通信には、大きく分けて半二重通信と全二重通信の2つの方式があります。
それぞれの特徴と現在の状況について詳しく説明します。
半二重通信とは
半二重通信は、通信路を使って双方向にデータの送受信が可能ですが、一度に一方向しか通信できない方式です。
これは、まるで無線トランシーバーのように、一方が話している間は相手は聞くことしかできない状況に似ています。
半二重通信は、一度に1つのノードだけがデータを送信するため、通信の衝突(コリジョン)を避けるための制御が必要です。
CSMA/CDとは?
CSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)は、半二重通信で使用されていた衝突検出のための仕組みです。
ネットワーク上で複数のノードが同じ通信路を共有する場合、同時にデータを送信しようとするとデータの衝突が発生します。
このため、CSMA/CDでは各ノードが通信路の空き状況を確認し、衝突が発生した場合は再送信を試みるという方法で通信の整合性を保っていました。
しかし、後述する全二重通信では衝突が発生しないため、CSMA/CDは不要となりました。
全二重通信では、送信と受信が異なる経路で行われるため、同時にデータを送受信しても衝突が発生しません。
これにより、CSMA/CDのような衝突を回避するための制御は必要なくなり、通信の効率がさらに向上しました。
全二重通信とは
全二重通信は、同じタイミングで双方が同時にデータを送受信できる通信方式です。
これにより、半二重通信に比べて通信効率が大幅に向上しました。



全二重通信では送信と受信が同時に行われるため、通信速度が高く、データの遅延も少なくなります。
現在では、ほとんどすべてのネットワーク機器が全二重通信に対応しており、半二重通信は使われていません。
全二重通信の導入によってネットワークの効率と速度が向上し、データのやり取りがスムーズに行えるようになりました。
特に現代のイーサネットネットワークでは全二重通信が標準となっており、高速で信頼性のあるデータ転送が実現されています。
まとめ
この記事では、イーサネットの仕組みや歴史、規格、イーサネットヘッダの構造、IEEE802委員会の役割、半二重通信と全二重通信の違いについて幅広く学習しました。



覚えることが多すぎて疲れちゃいました……。



でも大切なことですので、繰り返し読み返して身につけてくださいね。
イーサネットは現代のネットワーク通信において不可欠な技術です。なのでその仕組みや規格を理解することで、より効率的で信頼性の高いネットワーク設計や運用が可能になります。
この記事を通して、イーサネットの基本的な概念から詳細な技術まで幅広く学んでいただけたことでしょう。
今後も、イーサネットや関連する技術がどのように進化していくのか注目し続けることが重要です。
技術の発展により、より高速で信頼性のあるネットワークが構築され、私たちの生活やビジネスのさまざまな場面で役立つ未来が訪れるはずです。
今回学んだ内容が今後のネットワークに関する知識の土台となり、あなたの役に立つことを願っています。