輻輳制御について

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TCP通信が安定して高速に行われるためには、単に正確なデータ転送だけでなく、ネットワーク全体の混雑状況を考慮した調整が欠かせません。

石田先生

たとえば、多くの端末が同時に通信している場合や、通信回線の帯域が限られているときには、データがスムーズに流れず、パケットの遅延や損失が起きやすくなります。

混雑している場所だと、スムーズに通信ができないことがありますね。

こうした混雑状態を「輻輳(ふくそう)」と呼びます。

TCPはこの輻輳を自動的に検知し、状況に応じて送信量を調整することで、通信の安定性を保とうとします。

この制御機能こそが「輻輳制御」です。

この記事では、輻輳の基本的な考え方と、TCPがどのように送信量を調整しているのかを、代表的なアルゴリズムとあわせて解説していきます。

目次

輻輳制御とは

TCP通信では、ネットワークに接続する複数の送信者が同時に大量のデータを送り始めると、途中のルーターや通信回線が処理しきれずに混雑が発生することがあります。

このような状態を「輻輳(ふくそう)」と呼びます。

石田先生

輻輳が起きると、パケットの遅延や損失が発生し、結果として通信の品質が大きく低下してしまいます。

輻輳が起こらないようにすることが重要なのですね。

こうした状況を未然に防ぐ、あるいは発生時に影響を最小限にとどめるために、TCPには「輻輳制御(Congestion Control)」という仕組みが組み込まれています。

これは、送信側がネットワークの状態を考慮しながら送信速度を調整し、全体の通信負荷を適切に分散させるための機構です。

スロースタートアルゴリズム

輻輳制御では、最初から大量のデータを送るのではなく、段階的に送信量を増やしながらネットワークの様子を観察するというアプローチがとられます。

その代表的な手法が「スロースタート(slow start)アルゴリズム」です。

スロースタートでは、通信の開始時に送信ウィンドウサイズをMSS(Maximum Segment Size:最大セグメントサイズ)と同じ、つまり1セグメントだけ送信できる状態からスタートします。

最初のデータに対してACK(確認応答)が正常に返ってくると、ウィンドウサイズを倍に増やしていきます。

石田先生

たとえば、1MSS → 2MSS → 4MSS → 8MSS と、指数関数的に増加させていきます。

これにより、ネットワークに過剰な負荷をかけることなく、通信の立ち上がりをスムーズに進めることができます。

輻輳検出と対応策

ただし、このウィンドウサイズの増加には限界があります。

受信側から通知される「受信ウィンドウサイズ」がその上限となるため、それ以上には増やすことができません。

また、通信中にパケットロスやタイムアウトが発生した場合、TCPはそれを輻輳の兆候と判断し、ウィンドウサイズを急激に減少させる措置を取ります。

輻輳が起こらないように、入念に対応しているんですね。

この減少のタイミングや回復の仕方にも複数のアルゴリズムが存在し、例えば「輻輳回避(congestion avoidance)」や「高速リカバリ(fast recovery)」といった手法が使われます。

これらの制御は、ネットワークへの負荷を最小限に抑えつつ、データの流れをできるだけ止めずに維持することを目的としています。

TCPにおける輻輳の検出には主に2つの方式があり、それが「Lossベース」と「Delayベース」のアプローチです。

Lossベース(損失ベース)の手法は、パケットのロスやタイムアウトが発生したことをきっかけに輻輳が起きていると判断します。
代表的なTCP実装では、3つの重複ACKを受け取った時点で「輻輳が起きた」とみなし、ウィンドウサイズを大きく減らす処理が行われます。
これは従来のTCP RenoやTCP NewRenoなどで使われている方法です。

一方、Delayベース(遅延ベース)の手法では、ネットワーク上の遅延時間(RTT)が増加していることを輻輳の予兆とみなし、早めにウィンドウサイズの拡大を抑えたり縮小したりします。
代表的な例としてはTCP Vegasがあり、ネットワークの混雑が深刻化する前に送信速度を調整することで、より安定した通信を実現しようとするアプローチです。

このように、輻輳の兆候をどう捉えるかによって制御方法が異なるため、TCPのバージョンや用途に応じて適切なアルゴリズムが選ばれています。

輻輳制御の意義

このように、輻輳制御はTCPの安定的な通信を支えるために非常に重要な役割を果たしています。

送信者がネットワークの状態に応じて自律的に振る舞いを変えることで、全体のネットワーク品質を保ちながら公平で効率的なデータ伝送を実現しているのです。

まとめ

TCPにおける輻輳制御は、ネットワーク全体の健全な運用を支える重要な仕組みです。

単なる受信側とのやり取りにとどまらず、ネットワークの混雑状況をリアルタイムに推定し、それに応じた送信量の調整を行うことで、過剰な負荷の発生やパケットロスの増加を防いでいます。

特にスロースタートをはじめとするアルゴリズムは、段階的かつ柔軟にウィンドウサイズを拡大することにより、ネットワークへの負荷を抑えながら高いスループットを実現します。

石田先生

初期のMSS設定やACKの受信状況を踏まえた調整も含めて、TCPは非常に洗練された制御メカニズムを持っていると言えるでしょう。

TCPのすごさがとてもよくわかりました。

輻輳制御の理解は、TCPの仕組みをより深く知るうえで欠かせない要素であり、ネットワークの設計やトラブル対応にも役立つ知識です。

これらの制御があるからこそ、私たちは快適で安定したインターネット通信を日常的に利用できているのです。

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