インターネット上では、個人情報やクレジットカード番号など、他人に見られては困るデータが日々やりとりされています。
こうした情報を安全に届けるために欠かせないのが「暗号技術」です。
情報の漏洩や改ざん、なりすましといったリスクが存在する中で、暗号技術は私たちのプライバシーと信頼性を守る盾として機能しています。

前回も暗号技術によって私たちのデータが守られていることがわかりましたね。



今回は別の暗号方式について学びますよ。
今回学習する暗号方式は「公開鍵暗号方式」です。
これは、インターネット通信において、安全なデータのやりとりや本人確認を実現するための仕組みとして広く用いられており、現代の情報セキュリティを支える中核的な存在となっています。
私たちが日常的に利用するインターネットサービスの裏側では、この技術が静かに、しかし確実に活躍しています。
公開鍵暗号方式とは?
公開鍵暗号方式(こうかいかぎあんごうほうしき)は、データを暗号化する際に「暗号化鍵」と「復号鍵」という2つの異なる鍵を使う暗号技術です。
この方式では、誰でも手に入れられる公開鍵で暗号化を行い、そのデータは対応する復号鍵を持つ本人しか復号(元に戻すこと)できません。


この非対称な仕組みにより、送信者と受信者が安全に情報をやり取りできる環境が実現します。
特にインターネットのような不特定多数が接続するオープンなネットワークでは、第三者による盗聴や改ざんのリスクが常に存在しています。
そのような環境下でも、公開鍵暗号方式を活用することで、機密性の高い情報を安全にやり取りすることが可能となります。
この技術は、SSL/TLSなどの通信プロトコルをはじめ、電子署名による本人確認、さらには暗号資産(仮想通貨)のトランザクションの安全性確保など、多岐にわたる分野で利用されています。
私たちがインターネットで安心してサービスを利用できるのは、この公開鍵暗号方式が陰で支えているからにほかなりません。
公開鍵暗号方式の暗号化の流れ
公開鍵暗号方式では、送信者と受信者がそれぞれの鍵を適切に使うことで、安全な通信が可能となります。
ここからは、一般的な暗号化と復号の流れを説明します。
ステップ1:鍵の生成
まず、受信者が自分専用の「暗号化鍵」と「復号鍵」のペアを生成します。





鍵を作るのは送信者じゃなくて受信者なんですね。
「暗号化鍵」はばれてもいいので「公開鍵」とも表現されます。
「復号鍵」はばれると大変なので「秘密鍵」とも表現されます。
ステップ2:暗号化鍵の配布
受信者は、自分の暗号化鍵を送信者に伝えます。


これにより、送信者は受信者の暗号化鍵を使ってメッセージを暗号化できるようになります。
暗号化鍵は、Webサイトや電子証明書、メールなどさまざまな手段で配布されます。
ステップ3:データの暗号化
送信者は受信者から受け取った暗号化鍵を使って、送信したいデータを暗号化します。




暗号化の処理では、送信者のコンピュータ上で平文データが公開鍵に基づいた計算によって変換され、復号できない暗号文へと変わります。
さらに、安全性を高めるために、データと一緒にハッシュ値を添付するケースもあります。
これは、受信者が復号後に元の内容が改ざんされていないかを確認するための手段です。
※公開鍵暗号方式では、ハッシュ値は主に「電子署名」や「メッセージの改ざん検出」に使われます。たとえば送信者がメッセージのハッシュ値に自分の秘密鍵で署名することで、受信者は公開鍵で「その署名が正しく、メッセージが改ざんされていない」ことを確認できます。
ステップ4:データの送信
暗号化されたデータがインターネットなどのネットワークを通じて受信者に送信されます。
この過程では、パケットが複数のルーターやサーバーを通過する可能性があるため、送信中に第三者に傍受されるリスクが常に存在します。


しかし、公開鍵暗号方式によってデータはあらかじめ暗号化されているため、仮に通信が盗み見られたとしても、内容を解読することはほぼ不可能です。
また、通信内容の改ざんに対する防御効果もあり、送信時に施された暗号や署名によって、受信者はデータの完全性を確認できます。
ステップ5:データの復号
受信者は自分の復号鍵を使って、送られてきた暗号化データを復号します。


この復号処理によって、元のデータが正しく取り出され、安全な通信が完了します。
このように、暗号化鍵暗号方式では、あらかじめ安全な経路で復号鍵を共有する必要がなく、インターネットのようなオープンな環境でも安全に通信を行うことができるのが大きな特長です。
主な公開鍵暗号アルゴリズム
公開鍵暗号方式にはさまざまなアルゴリズムが存在しており、それぞれに独自の特徴や強みがあります。
暗号の安全性、計算の効率性、鍵の長さなどによって選択肢が異なりますが、どれも現代の通信インフラを支える重要な仕組みとなっています。
RSA(リベスト・シャミア・アドルマン)
RSAは1977年に発表された、最も有名で広く使われている公開鍵暗号方式の一つです。
その仕組みは、大きな素数2つの積を用いた整数の因数分解の困難性に基づいています。



具体的には、暗号化鍵で暗号化されたデータは、対応する復号鍵を使わなければ復号できないよう設計されています。
RSAはデジタル署名やSSL/TLSなど、幅広い分野で使用されており、暗号化の強度は鍵の長さによって決まります。
現在では2048ビット以上の鍵長が推奨されています。
ElGamal暗号
ElGamalは1985年にタヒール・エルガマルによって提案された公開鍵暗号方式で、離散対数問題に基づいています。



離散対数問題については深く学ばなくても大丈夫ですよ。



ほっとしました。
この方式はランダム性を取り入れた暗号化を行うため、同じ平文でも異なる暗号文になるという特徴があります。
ElGamalは主に電子署名や鍵共有の分野で用いられ、後述する楕円曲線暗号(ECC)と組み合わせることもあります。
ただし、暗号文のサイズが大きくなりやすいため、通信量を抑えたい場面には不向きな場合もあります。
楕円曲線暗号(ECC)
楕円曲線暗号は、楕円曲線上の数学的性質を利用した暗号方式で、RSAやElGamalに比べて短い鍵長で同等以上の安全性を確保できるという利点があります。
例えば、ECCの256ビットの鍵長は、RSAの3072ビット鍵長と同程度の安全性を持ちます。
そのため、モバイル機器やIoTデバイスなど、計算資源が限られる環境において特に有効です。
ECCは高い効率性とセキュリティのバランスを持つため、近年急速に採用が広がっている暗号方式です。
それぞれのアルゴリズムは、用途や処理能力、セキュリティ要件に応じて適切に選択され、現代の通信技術の中核を担っています。
まとめ
公開鍵暗号方式は、私たちが日常的に使っているインターネットサービスの裏側で、情報を守るために欠かせない存在です。
非対称な鍵の仕組みにより、個人情報や取引データの盗聴や改ざんを防ぎ、信頼できるやりとりを可能にしています。
また、電子署名や鍵交換といった応用技術により、安全な通信だけでなく、本人確認やデータの真正性を保証することもできます。



とはいえ、処理の重さや鍵管理の複雑さといった課題もあるため、共通鍵暗号との併用やPKIの整備といった工夫が不可欠です。
これからも、より安全で効率的な暗号技術の進化とともに、公開鍵暗号方式の役割はますます重要になるでしょう。