リンクアグリゲーション

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ネットワークの速度や信頼性を高めたいとき、有効なのが「リンクアグリゲーション」という技術です。

これは複数のネットワーク回線を束ねて、あたかも1本の回線のように扱うことで、通信の効率化や障害への強さを実現する仕組みです。

単に速度が上がるだけでなく、通信が安定しやすくなるため、企業にとっては業務継続性の向上にも寄与します。

物理的に回線が増えたら、速度も上がるし通信も安定するし、良いこと尽くめですね。

特に、サーバやネットワーク機器が集中するデータセンター、あるいは業務トラフィックが多い企業の基幹ネットワークにおいては、この技術の導入が標準化されつつあります。

システムの拡張性や柔軟性を保ちながら、高速かつ信頼性のあるネットワーク環境を構築するために欠かせない存在です。

目次

リンクアグリゲーションとは

リンクアグリゲーション(Link Aggregation)は、複数の物理的なネットワーク回線(LANポート)を束ねて、1本の論理的な通信回線として利用する技術です。

石田先生

これにより、通信速度の向上冗長性の確保を実現できます。

複数の通信経路をまとめて1つの経路として扱うことで、効率的な通信が可能になり、システム全体のトラフィック処理能力が向上します。

さらに、ネットワークの混雑を緩和し、通信遅延のリスクを軽減することも期待できます。

まるで一車線の道路を、二車線、三車線と拡張していくような感じですね!

負荷分散を効率的に行うことで、複数の通信セッションをスムーズに処理でき、ネットワーク全体のパフォーマンスが大きく向上します。

石田先生

たとえば、複数のクライアントからサーバに同時にアクセスが発生した場合でも、各リンクに処理が分散されることで、ボトルネックを回避できます。

また、リンクアグリゲーションの導入により、通信品質が安定し、リアルタイム性が求められる業務にも対応しやすくなります。

このような信頼性向上策として、かつてはスパニングツリープロトコル(STP)が用いられてきましたが、リンクアグリゲーションはその代替または補完技術として位置づけられます。

リンクの障害時にも残りのリンクで通信を継続できるため、業務への影響を最小限に抑えることが可能です。

これにより、重要な業務やサービスを中断することなく継続でき、企業の信頼性や顧客満足度の維持にもつながります。

また、リンクアグリゲーションはIEEE 802.1AX(旧IEEE 802.3ad)として標準化されており、対応するスイッチやサーバにより柔軟な構成が可能です。

たとえば、スイッチングハブ間を束ねて高速な幹線(バックボーン)を構成する例や、サーバとスイッチを複数のポートで接続して処理能力を向上させる構成などがあります。

さらに、これらの構成を導入することで、機器のリソースを最大限に活用し、ネットワークの信頼性と拡張性の両立を図ることができます。

スパニングツリーの復習

リンクアグリゲーションとあわせて理解しておきたいのが、「スパニングツリープロトコル(STP)」です。

STPは、ネットワーク内にループ構成(物理的に冗長な接続)が存在しても、ループが発生しないように一部の経路を論理的に遮断することで、ネットワークの安定性を保つプロトコルです。

ループ構成は、障害発生時に備えた冗長性を持たせるうえで有効ですが、そのまま運用するとブロードキャストストームなどの深刻な問題を引き起こす可能性があります。

STPはこうしたリスクを回避するため、ネットワークトポロジーを自動的に計算し、最適な経路を選んでループを防ぎます。

万が一、使用中の経路に障害が発生した場合は、あらかじめ遮断していた経路を自動的に再開通させることで通信を継続できる仕組みを備えており、高い可用性を確保することが可能です。

このように、STPは障害時のフェイルオーバーに対応できる点でも、一定の信頼性を持ちます。

「フェイルオーバー」とは、ネットワークやシステムに障害が発生したとき、自動的に予備の機器や経路に切り替えて処理を継続させる仕組みのことです。たとえば通信回線が切れた場合、あらかじめ待機していた別の回線に自動で切り替わることで、サービスの停止を防ぎ、可用性を高めることができます。

ただし、STPにはいくつかの課題もあります。

代表的なものとして、切り替え(コンバージェンス)に時間がかかること、そして遮断しているリンクの帯域を有効活用できないことが挙げられます。

そのため、常に全リンクを活用して負荷分散を図るリンクアグリゲーションに比べ、効率面での劣位が目立つようになりました。

こうした背景から、より実用的で高性能な冗長構成を実現する手段として、近年ではリンクアグリゲーションの導入が進んでいるのです。

論理グループとしての運用と管理

リンクアグリゲーションでは、複数の物理リンクを1つにまとめて、論理的に1本の通信経路として扱います

このように束ねられたリンクの集合を「論理グループ」として管理し、システム全体の帯域幅や耐障害性を向上させる役割を果たします。

石田先生

論理グループは外見上、まるで通常のLANケーブル接続のように見えるため、PCやサーバ側からは特別な操作や設定を意識することなく、1本の回線として認識されます。

このため、論理グループの制御や構成の管理は、主にスイッチングハブやルータ側で行われます。

これにより、エンドユーザーの端末はネットワーク構成の複雑さを意識せずに通信が行え、管理者側も柔軟なネットワーク設計や構成変更が可能となります。

たとえば、新たな物理ポートを追加して論理グループに組み込むことで、帯域や冗長性を簡単に強化することが可能です。

論理グループを活用することで、以下のような利点が得られます。

負荷分散

たとえば、ユーザーがYouTubeを視聴しながらDropboxにファイルをアップロードしている状況では、それぞれが異なるセッションと認識され、YouTubeは物理リンク1、Dropboxは物理リンク2を使用するというように分散されます。

これにより、複数のサービスが同時に利用されても帯域が逼迫しにくく、快適なネットワーク利用が可能になります。

また、社内の業務アプリやストレージアクセス、クラウドバックアップ、ビデオ会議などの複数のトラフィックが重なる環境でも、ネットワークの混雑を防ぎながらスムーズな運用を実現できます。

さらに、帯域を複数のリンクに分けて処理することで、個別の通信が極端に遅延する事態も回避できます。

ただし、1つの大容量通信(例:Dropboxのファイルアップロード)の場合には、複数リンクにまたがって処理されるわけではないため、全体の帯域幅がそのまま使えるわけではなく、原則として1本分の速度が上限となります。

これは、セッション単位で通信の経路が固定される設計に起因する制限です。

冗長化

論理グループ内のいずれかの物理リンクが切断された場合でも、残りのリンクが通信を継続するため、システム全体の安定性と可用性が確保されます。

たとえば、ケーブルの断線や機器トラブルが発生しても、利用者側に影響が出にくく、サービスを止めずに運用を継続できるという強みがあります。

特に、24時間稼働が求められるようなサーバ環境や拠点間通信では、こうした冗長構成の重要性は非常に高いです。

また、リンクが複数存在することで障害対応に要する時間を短縮でき、復旧時も即座に冗長性を回復できます。

なお、どのポートをどの論理グループに所属させるかは、ネットワーク管理者がスイッチングハブやルータの管理画面から設定を行う必要があります。

石田先生

手動での構成が基本となるため、設計段階での構成図の作成や、設定ミスを防ぐためのチェック体制が欠かせません。

慎重に構成する必要があるのですね。

設定後は動作確認やトラフィック分散状況のモニタリングも重要であり、特定の通信が1本のリンクに偏っていないか、リンクの使用率が均等かなどの視点で継続的に観察することが求められます。

さらに、運用中のトラブルに備えて、定期的なメンテナンスやログの確認、ファームウェアの更新も行うことで、安定した論理グループ運用が実現できます。

静的構成と動的構成の違い

リンクアグリゲーションの設定には、大きく分けて「静的構成(Static)」と「動的構成(Dynamic)」の2つの方式があります。

それぞれにメリット・デメリットがあるため、導入環境に応じて適切な方式を選択することが求められます。

静的構成(Static Link Aggregation)

静的構成は、管理者が手動でリンクアグリゲーションを設定する方式です。

接続する双方の機器で一致した設定が必要で、構成が固定的であることから、構成変更の頻度が低く、安定した運用が求められる環境に向いています。

シンプルで手間のかからない構成ですが、リンク障害が発生しても自動的に再構成されることはなく、運用者による手動の確認と復旧が必要です。

また、設定ミスによって意図しない通信トラブルを引き起こすリスクもあるため、導入時には綿密な構成確認と試験が欠かせません。

安価なネットワーク機器では静的構成のみ対応しているケースも多く、特に小規模ネットワークでは現実的かつ十分な選択肢となります。

動的構成(LACP:Link Aggregation Control Protocol)

動的構成は、IEEE 802.1AX(旧802.3ad)で標準化されたLACPというプロトコルを用いて、スイッチやルータなどの機器同士が自動的にリンク状態を検出し、使用可能なリンクのみを自動で束ねる方式です。

リンクの追加や削除に柔軟に対応できるため、構成変更や障害発生時にも安定した運用が可能です。

構成ミスが起きにくく、通信の健全性を維持しやすい点から、企業ネットワークなど信頼性が重要な場面での採用が多く見られます。

また、LACPはリンクの活性・非活性の検出を行い、片側だけがダウンした非対称な障害にも自動で対応できるのが大きな特長です。

動的な構成管理が求められる大規模ネットワークや、保守性を重視する運用現場では、LACPによる動的構成が標準的な選択となりつつあります。

静的構成と動的構成のどちらを選択するかは、ネットワーク機器の対応状況や運用ポリシー、求められる冗長性・柔軟性、そして管理者のスキルレベルにも左右されます。

たとえば、大規模なネットワークや変更が多い環境ではLACPによる動的構成が推奨されますが、機器がLACPに対応していない、あるいはシンプルな構成を求める中小規模ネットワークでは静的構成が現実的な選択肢となることもあります。

環境によって、静的構成と動的構成のどちらを選ぶべきかは変わってくるのですね。

リンクアグリゲーションの注意点

リンクアグリゲーションを導入する際には、いくつかの注意点があります。

まず、リンクアグリゲーションを構成するすべての機器が対応している必要があります。スイッチやルータの機種によってはLACPに未対応であったり、特定のポート数に制限がある場合があります。

また、帯域の増加はセッション単位での分散に依存するため、単一の通信では物理リンク1本分の帯域しか利用できない点も理解しておく必要があります。たとえば、大容量ファイルを1つのセッションで転送する場合、リンクアグリゲーションによって帯域が倍増するわけではありません。

さらに、負荷分散のアルゴリズム(MACアドレスベース、IPアドレスベース、ポートベースなど)によっては、トラフィックの分配に偏りが生じる可能性もあります。これにより、特定のリンクにトラフィックが集中し、想定した性能が発揮できないケースもあるため、設計時に十分な検討が必要です。

加えて、トラブル発生時の切り分けが難しくなることもあります。

複数リンクが束ねられていることで、物理的な問題の影響範囲が把握しづらくなり、原因特定や対処に時間がかかることがあります。定期的な監視やログの確認を通じて、異常検知の体制を整えておくことが望ましいです。

まとめ

リンクアグリゲーションは、ネットワークの帯域幅向上や冗長化、負荷分散といった多くのメリットを持ち、信頼性の高い通信環境を構築するうえで非常に有効な技術です。

静的構成と動的構成という選択肢があり、それぞれの特徴を理解したうえで、ネットワーク規模や運用ポリシーに応じた適切な導入が求められます。

導入にあたっては、対応機器の確認や構成の正確さ、そしてセッション単位での帯域制限といった制約についても十分に配慮する必要があります。

運用後も、トラフィックの監視や定期的な保守を通じて、性能と安定性を維持していくことが重要です。

ネットワークの将来的な拡張や障害への強さを見越して、リンクアグリゲーションを戦略的に活用することで、より強固で柔軟なインフラ構築が可能になります。

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