ネットワークスペシャリスト試験の学習を進めていく上で、TCP/IPモデルを理解することは非常に重要です。
なぜなら、TCP/IPモデルは現在のインターネット通信の基盤であり、現実世界で広く利用されているモデルだからです。
(前回学習したOSI基本参照モデルは現在使われておらず、説明用のフレームワークとして概念を理解する必要がありました)
この記事では、試験に頻出するTCP/IPモデルについて、その基本概念から各層の役割までを丁寧に解説します。
TCP/IPモデルについてきちんと学ぶことでネットワークに関する理解が深まり、試験対策に役立てていただけるでしょう。
TCP/IPモデルとは
TCP/IPモデルは、インターネット通信の基盤となるネットワークプロトコルの体系です。
TCP/IPモデルは1970年代にアメリカ国防総省のARPANETプロジェクトの一環としてヴィントン・サーフ博士とロバート・カーン博士が提唱し、現在ではデファクトスタンダード(事実上の業界標準)として広く採用されています。
TCP/IPモデルは、データを安全かつ効率的に送受信するためのプロトコル群であり、その普及により異なるシステム間の相互接続が可能となりました。
特に重要なのは、IPアドレスを用いたパケットのルーティングや、TCPのコネクション制御による信頼性と効率の確保です。
これらの仕組みは、データの遅延や損失を防ぎ、信頼性の高い通信を実現するためのものであり、試験対策においても理解しておくべき重要なポイントです。
さらに、TCP/IPモデルはIETF(Internet Engineering Task Force)によって標準化され、RFC(Request for Comments)というドキュメントとして世界中に公開されているということも知っておくべきでしょう。
この標準化により、ネットワークエンジニアは共通の基盤に基づいてシステムを構築しやすくなり、相互運用性が向上しました。
試験では、各プロトコルの具体的な動作や、TCP/IPモデルの各層でデータがどのように流れるかをしっかりと理解することが求められます。
TCP/IPモデルの4つの層
TCP/IPモデルは、4つの層に分かれています。
- 第1層:ネットワークインターフェイス層(Network Interface Layer) – 物理的なネットワーク接続を担当します。
- 第2層:インターネット層(Internet Layer) – ネットワーク間でのデータの転送とルーティングを行います。
- 第3層:トランスポート層(Transport Layer) – データ転送の信頼性を確保します。
- 第4層:アプリケーション層(Application Layer) – ユーザーが利用するネットワークサービスを提供します。
このモデルはOSI基本参照モデルを簡略化したものとされ、シンプルで現実的な運用ができるように設計されています。
OSI基本参照モデルとTCP/IPモデルについて比較をしてみましょう。

TCP/IPモデルは高い互換性と使いやすさを備えており、実際のネットワークにおいて、安定したデータ通信や相互接続の確立に大きく寄与しています。
TCP/IPモデルの各層はOSI基本参照モデルの各層と同様に、それぞれが特定の役割を持ち、データ通信を効率的に行うために連携して機能します。
第一層:ネットワークインターフェイス層(Network Interface Layer)
ネットワークインターフェイス層は、OSI基本参照モデルにおける物理層とデータリンク層に対応しており、物理的な接続を使ってデータを送受信する役割を持っています。
この層は、ネットワーク内の機器同士を直接つなげることで、主に同一ネットワーク内の通信を実現します。

具体的な技術としてはイーサネット(Ethernet)やWi-Fiが代表的です。これらを使うことで、データ(フレーム)がネットワーク機器間でやり取りされます。
この層では、MACアドレス(Media Access Control Address)と呼ばれる、各機器に固有の識別子を使ってデータを送信します。
MACアドレスにより、データが正確に目的の機器へ届けられるようになっているのです。
また、この層で使われる代表的な機器にスイッチングハブ(L2スイッチ)があります。
※「スイッチングハブ」を「L2スイッチ」とも呼ぶのは、「L2」が「Layer 2」を指しているためであり、OSI基本参照モデルにおける第二層であるデータリンク層に該当するからです。
スイッチングハブは、ネットワーク内でMACアドレスを基にデータを転送し、効率的に特定のデバイスに届けることで通信をスムーズにし、無駄なトラフィックを減らすことができます。
第二層:インターネット層(Internet Layer)
インターネット層は、OSI基本参照モデルにおけるネットワーク層に該当し、データ(パケット)をネットワーク間で転送する役割を持っています。
この層では、パケットのアドレス指定やルーティングが行われ、データが送信元から目的地まで適切に届けられるように管理されます。
主要なプロトコルはIP(Internet Protocol)です。現在ではIPv4とIPv6の2種類が使用されています。
IPv4は32ビットのアドレス空間を持ち、約43億個のアドレスを提供しますが、現在では枯渇が問題となっています。
一方、IPv6は128ビットのアドレス空間を持ち、ほぼ無限に近い数のアドレスを提供することで、この問題を解決します。IPv6はより多くのデバイスがインターネットに接続できるように設計されています。
IPアドレスを利用して経路を決定し、効率的にパケットを届けることがインターネット層の中心的な機能です。
※ネットワークインターフェイス層はMACアドレスのみを理解でき、インターネット層はIPアドレスのみを理解できます。
具体的な機器としては、ルーターとL3スイッチ(Layer 3 Switch)を覚えておきましょう。
ルーターはネットワーク間でデータを転送するための機器で、IPアドレスを使って最適な経路を決定します。
L3スイッチもルーティング機能を持ち、特にLAN内部で高速にデータを転送する際に使用されます。
※「L3スイッチ」は、ルーターとスイッチングハブ(ネットワークインターフェイス層で登場しました)の機能を併せ持った機器のことです。スイッチング機能とルーティング機能を兼ね備えているため、大量のデータを効率よく処理できます。
第三層:トランスポート層(Transport Layer)
トランスポート層は、OSI基本参照モデルにおけるトランスポート層に該当し、データ転送の信頼性を確保する役割を持っています。
代表的なプロトコルにはTCP(Transmission Control Protocol)とUDP(User Datagram Protocol)があります。
- TCP…信頼性の高いデータ転送を行うためにコネクションを確立し、再送制御やフロー制御を行う。
例:ウェブページの表示(HTTP)やファイルのダウンロード(FTP)など。 - UDP…コネクションを確立せず、リアルタイム性が求められる用途に使用される。
例:ビデオストリーミングやオンラインゲーム、VoIP(インターネットを介した音声通話)など。
TCPでは、データの分割、順序の管理、誤り検出、再送制御などが行われ、エンドツーエンドの通信が安定して行われるように保証します。
※「エンドツーエンド」とは、通信の始点から終点までデータが途切れずに届くことを意味します。具体的には、送信側のアプリケーションから受信側のアプリケーションまで、途中のネットワーク機器を経由しながらも、データが確実に目的地まで届くことを指します。

また、トランスポート層はポート番号を理解し、特定のアプリケーション間でデータをやり取りすることが可能です。
トランスポート層に関係する機器として、ゲートウェイ(プロキシサーバ、ファイアーウォールなど)が挙げられます。
これらの機器はトランスポート層で扱うポート番号を理解し、適切にデータを転送したり、セキュリティのための制御を行ったりします。
第四層:アプリケーション層(Application Layer)
アプリケーション層は、OSI基本参照モデルにおけるセッション層、プレゼンテーション層、アプリケーション層に該当し、ユーザーが直接利用するインターネットサービスを提供する層です。
この層では、データの表示やアプリケーション間の通信をサポートする機能を持ち、ユーザーにとっての利便性を担保しています。
※OSI基本参照モデルにおける「セッション層」と「プレゼンテーション層」がTCP/IPモデルではアプリケーション層に属するため、プログラマはセッション管理やデータの暗号化、ログイン認証なども実装しなければなりません。
イメージしやすいよう、参考プログラムを作成しておりますので併せてご覧ください。
アプリケーション層で使用される代表的なプロトコルにはHTTP(Web閲覧用)、FTP(ファイル転送用)、SMTP(電子メール送信用)などがあります。
これらのプロトコルを通じて、ユーザーはインターネット上のさまざまなサービスにアクセスし、情報をやり取りできるのです。
まとめ
TCP/IPモデルは、インターネット通信の基盤として非常に重要な役割を果たしています。
それぞれの層が持つ独自の機能と役割により、インターネット上での円滑なデータのやり取りが実現されているのだということをきちんと理解することが合格への道筋です。
ネットワークインターフェイス層から始まり、インターネット層、トランスポート層、アプリケーション層まで、各層が協力して効率的かつ安全な通信を提供しているということがイメージできたでしょうか?
これらの層の働きを理解することは、ネットワーク技術に携わるエンジニアにとって不可欠であり、現代の複雑な通信環境を支えるための重要な知識です。
目に見えない部分も多く、一度で理解することは難しいと思いますが、何度も読み返して理解を深めていただければ幸いです。