前回まででインターネット層の学習が終わり、今回からはトランスポート層の学習が始まります。

新しい章に突入ですね。



ワクワクします!
トランスポート層はOSI基本参照モデルの第4層に位置し、ネットワーク通信において重要な役割を担います。



今回は、そんなトランスポート層の役割についてしっかりと学習していきましょう。
トランスポート層が果たす役割を知ることで、その中で働くプロトコル(TCPとUDP)についても理解が深まります。
それでは早速、学習に入りましょう。
トランスポート層の役割
トランスポート層は、ネットワークを通じて送受信されるデータを「どのアプリケーションに渡すか」を正確に判断し、最終的にアプリケーション層に届ける役割を担っています。


具体的には、ネットワーク層から受け取ったデータ(パケット)は、まだ「どのアプリ向けか」が判別できません。
そこでトランスポート層が「ポート番号」を使って、正しいアプリケーションを識別します。
たとえば……。
- Webサイトの閲覧なら「80番ポート(HTTP)」
- メール受信なら「110番ポート(POP3)」
- メール送信なら「25番ポート(SMTP)」
このように、トランスポート層はポート番号を確認して適切なアプリへ渡す「仕分け係」のような役割を果たします。
さらに、TCPの場合は途中でデータが欠けたり順番がズレたりしないように管理し、アプリケーション層には「完全かつ正しい形のデータ」を渡します。



TCPについては次の記事で詳しく解説をしていきます。
つまり、トランスポート層のおかげでユーザーは「Webページが途中で途切れる」「メール本文がバラバラになる」ということがなく、快適にアプリケーションを使える仕組みになっています。
ポート番号とは
ポート番号とは、コンピュータの中で「どのアプリケーション(ソフトウェア)が通信の相手か」を識別するための番号です。
IPアドレスが「通信相手のコンピュータ」を指定するのに対して、ポート番号は「そのコンピュータの中のどのアプリケーションか」を指定します。
たとえば、同じコンピュータで以下のような通信が同時に行われることがあります。
- Webサイト閲覧(HTTP) → ポート番号 80
- メール送信(SMTP) → ポート番号 25
- メール受信(POP3) → ポート番号 110
- 動画ストリーミング(YouTubeなど) → ポート番号 443(HTTPS)
トランスポート層では、これらのポート番号を見て各データの送り先を「Webサーバアプリ」「メールサーバアプリ」などというように仕分けを行います。
ポート番号は 0〜65535 までの範囲があり、大きく3つに分類されます。
ポート範囲 | 内容・用途 |
---|---|
0〜1023 | ウェルノウンポート(HTTPやSMTPなど標準サービス) |
1024〜49151 | 登録済みポート(特定のサービスやアプリケーション用) |
49152〜65535 | 動的ポート・プライベートポート(一時的な通信やユーザー自由利用) |



つまりポート番号は、「誰宛の通信なのか」を特定する住所の部屋番号のような役割を持ち、トランスポート層で正しいアプリケーションにデータを届けるために欠かせない仕組みです。
ウェルノウンポート番号
ポート番号は通信相手のアプリケーションを識別するための重要な仕組みですが、その中でも0〜1023番のポートは「ウェルノウンポート番号(Well-known Ports)」と呼ばれています。
これは、インターネット標準の主要なサービスやプロトコルに割り当てられている番号です。
たとえば以下のようなものがあります。
ポート番号 | サービス名 | プロトコル | 説明 |
---|---|---|---|
20 / 21 | FTP | TCP | ファイル転送プロトコル |
22 | SSH | TCP | リモートログイン、リモートシェルアクセス、ファイル転送(SCPやSFTPを介した) |
23 | Telnet | TCP | テレネット(Telnet)プロトコル(非推奨) |
25 | SMTP | TCP | メール送信プロトコル |
53 | DNS | TCP / UDP | ドメイン名解決サービス |
67 / 68 | DHCP | UDP | ネットワーク設定に関するプロトコル |
80 | HTTP | TCP | Webサイト閲覧(通常のWeb通信) |
110 | POP3 | TCP | メール受信プロトコル |
123 | NTP | UDP | 時刻同期プロトコル |
143 | IMAP | TCP | メール受信プロトコル(IMAP) |
161 / 162 | SNMP | UDP | ネットワーク機器管理プロトコル |
179 | BGP | TCP | ボーダーゲートウェイプロトコル(経路制御) |
443 | HTTPS | TCP | 暗号化されたWeb通信 |
520 | RIP | UDP | ルーティング情報プロトコル |
546 | DHCPv6 Client | UDP | IPv6クライアント向けIPアドレス自動割り当て |
547 | DHCPv6 Server | UDP | IPv6サーバー向けIPアドレス自動割り当て |
587 | Submission | TCP | メール送信(SMTP Message Submission) |
989 | FTPS Data | TCP | SSL/TLSによるFTPデータ転送 |
990 | FTPS Control | TCP | SSL/TLSによるFTP制御通信 |
993 | IMAPS | TCP | SSL/TLSによるIMAPメール受信 |
995 | POP3S | TCP | SSL/TLSによるPOP3メール受信 |
ウェルノウンポート番号は全世界で共通のルールとして使われているため、特定のサービスやアプリケーションがどのポートで通信しているのかが明確になります。



ポート番号を指定することで、目的のアプリケーションにデータを渡すことができるのですね。



全世界で共通なら、データの送り先に悩むこともないですね。
これにより、トランスポート層は正確にアプリケーションを識別し、通信の成立を支えています。
コネクション型とコネクションレス型について
トランスポート層で使用されるプロトコルは、大きく「コネクション型」と「コネクションレス型」に分けられます。



それぞれの特徴を理解することで、用途に適した通信方法を選択できます。
コネクション型(Connection-oriented)
代表的なプロトコル:TCP(Transmission Control Protocol)
コネクション型は、通信を開始する前に相手との間で接続(コネクション)を確立し、仮想的な通信路を構築してからデータを送受信します。
※コネクションとは、通信するアプリケーション同士が互いに通信準備ができていることを確認し合い、情報のやり取りを安全に行うための仕組みです。
このコネクションは、アプリケーション間で1対1(ユニキャスト)の通信のみで採用されるのが特徴です。


TCPはこの仕組みを採用しており、通信中はデータが正しい順番で届くよう管理され、万が一エラーが発生した場合は再送処理が行われます。



信頼性の高い通信が保証されているのですね。
TCPは主にWeb通信(HTTP/HTTPS)やメール送信(SMTP、IMAP、POP3)など、正確なデータ転送が求められる場面で広く使用されます。
また、データ量が多いファイル転送やアプリケーション間の正確な通信が必要な場合にも採用されます。
コネクションレス型(Connectionless)
代表的なプロトコル:UDP(User Datagram Protocol)
コネクションレス型は、事前の接続手続きを行わず、相手のアプリケーションに対して必要なデータを一方的に送り出します。
データは送信された順に届けられる保証がなく、受信側で順番が入れ替わる可能性もあります。



データの信頼性が低いのですね。



その代わり、通信の速さが魅力です。


この方式は、1対多(ブロードキャストやマルチキャスト)通信にも対応可能なため、複数の受信者に同時にデータを配信する用途にも適しています。
UDPはその軽量さと高速性から、リアルタイム性が重視される通信に適しています。
具体例としては、音声通話(VoIP)や動画配信(ストリーミング)、オンラインゲーム、DNSクエリなどがあり、多少のデータ欠落よりも速度や遅延の少なさが重要視される場面でよく使われます。
まとめると、コネクション型は信頼性重視の通信、コネクションレス型は速度とリアルタイム性重視の通信に使われ、それぞれの特徴を活かしてトランスポート層はアプリケーション層へのデータ転送を支えています。
まとめ
トランスポート層は、ネットワーク通信の中核としてアプリケーション間の正確なデータ伝送を担う重要な役割を果たしています。
ポート番号によるアプリケーション識別や、信頼性・効率性の異なるプロトコルの使い分けによって、Webサイト閲覧から動画配信、メールの送受信に至るまで、私たちが日常的に利用するさまざまなサービスの土台を支えています。



トランスポート層が支えてくれているからこそ、アプリケーションが上手く働くのですね。
さらに、オンラインゲームやリアルタイムチャット、音声・ビデオ通話など、現代の多様なインターネットサービスにもトランスポート層は欠かせない存在です。
これらのサービスは、トランスポート層の適切なプロトコル選択と制御によってスムーズな通信が可能となり、快適なユーザー体験を実現しています。



トランスポート層を理解することは、ネットワークの仕組みを深く知るうえで欠かせないポイントです。
トランスポート層を理解することで、より効率的で安定したネットワーク運用を目指すことができるでしょう。