ネットワークが止まることは、業務にとって大きなリスクとなります。
特にゲートウェイの障害は、多くの機器に影響を与えるため、安定した通信環境を維持するうえで回避すべきポイントです。
そこで重要になるのが、スイッチングハブの信頼性を高める仕組みの一つである「VRRP(Virtual Router Redundancy Protocol)」です。

VRRPについてはこちらの記事でも学習しましたが、信頼性向上という観点からVRRPについて見てみましょう。
ここでは、スイッチングハブの冗長化を実現し、ネットワークの可用性を向上させるVRRPの仕組みとそのメリットについて解説します。
スイッチングハブの信頼性とVRRPの関係
ネットワークにおける安定性と可用性を高めるためには、スイッチングハブ単体の信頼性に加えて、ネットワーク全体の冗長構成も重要です。
物理的な接続の二重化だけでは不十分であり、論理的な経路の冗長性や障害時の自動切り替えといった仕組みも併せて導入する必要があります。



特に、ネットワークにおける要となるゲートウェイに障害が発生した場合、すべての通信が停止してしまうリスクがあるため、ゲートウェイの冗長化は極めて重要な要素です。
その中でも、特にL3スイッチ(ルーティング機能を持つスイッチ)におけるゲートウェイの冗長性を確保する手法として広く使われているのがVRRP(Virtual Router Redundancy Protocol)です。
この技術は、複数の機器をあたかも1台の仮想ルータとして動作させ、ネットワーク障害に強い構成を実現します。
VRRPとは何か
VRRPとは、複数のルータ(またはL3スイッチ)を1つの仮想ルータとして動作させることで、ネットワークのゲートウェイの冗長性を確保するプロトコルです。
企業や組織のネットワークにおいて、常に安定した通信を維持するためには、ネットワークの出入り口であるゲートウェイが常に稼働している必要があります。
VRRPは、そのようなニーズに応えるための冗長化手法として広く採用されています。


VRRPの仕組みでは、複数のスイッチやルータの中から「マスタールータ(アクティブルータ)」を1台選出し、その機器が仮想IPアドレスとMACアドレスを引き受けて実際の通信を担当します。
ユーザーの端末やクライアントは、この仮想IPをデフォルトゲートウェイとして設定することで、物理機器の障害を意識することなく安定した通信を行うことが可能です。


他のルータは「バックアップルータ」として待機し、マスターに障害が発生した場合には自動的にその役割を引き継ぎます。
この切り替えは数秒以内で完了するよう設計されており、ユーザー側ではほとんど気づかないレベルで通信が継続されます。



これにより、ネットワークの中断を最小限に抑え、高い可用性を実現できます。
VRRPは、シンプルながらも非常に効果的な冗長化手法として、さまざまなネットワーク環境で活用されています。
スイッチングハブとVRRPの連携
VRRPは主にL3スイッチで使用されます。
L3スイッチはルーティング機能を備えており、ネットワークセグメント間の通信を担うため、ネットワークのゲートウェイとして機能することが多いです。
企業ネットワークにおいては、部門ごとに異なるセグメントが構成されており、それらを接続するためにL3スイッチが不可欠です。
そのため、ゲートウェイの冗長性を確保することが、ネットワーク全体の信頼性向上に直結します。
このようなL3スイッチにVRRPを導入すると、仮想的なゲートウェイが構成されます。



たとえば、2台のL3スイッチにVRRPを設定し、仮想IPをクライアントのデフォルトゲートウェイとして設定すれば、通常は1台がアクティブとして通信を担当し、もう1台はスタンバイとして待機します。



もしアクティブ側に障害が発生した場合、スタンバイ側が即座に引き継ぐことで、通信の中断を最小限に抑えることができるということですね。
この切り替えはネットワークレベルで自動的に行われるため、クライアント側の設定変更や再接続などの作業は不要です。
管理者の手を煩わせることなく、利用者にとっては何事もなかったかのように通信が継続されます。
また、仮想IPの存在により、IPアドレス設計や構成変更時にも柔軟に対応できるというメリットがあります。
これにより、スムーズに冗長性が確保され、業務の継続性が大きく向上するのです。
VRRPによる冗長構成のメリット
VRRPを導入することで得られる効果は、単なる障害対策にとどまりません。
ネットワークの信頼性を総合的に高め、日常の運用や障害時の対応をスムーズにする多くの利点があります。
ここでは、代表的な3つのメリットについて詳しく解説します。
①高可用性が実現できる
VRRPを導入する最大の利点は、高可用性を確保できる点です。
仮想ルータのマスター機器が故障しても、自動的にバックアップ機器がその役割を引き継ぐため、ネットワークの中断時間をほとんど発生させることなく運用を継続できます。
切り替えは数秒以内で完了し、ユーザー側では気づかないうちに復旧していることも多く、業務に支障をきたすことがありません。
②クライアント設定の透明性
VRRPでは、クライアントが使用するデフォルトゲートウェイは常に仮想IPとして統一されているため、物理的なスイッチやルータの変更・障害が発生しても、クライアントの設定を変更する必要がありません。
これにより、ネットワーク構成変更時の運用負担が軽減され、利用者にとっても意識することなくスムーズな通信が維持されます。
③一部環境での負荷分散も可能
VRRPの標準仕様では単一のアクティブ機器が通信を担いますが、一部のネットワーク機器ベンダーでは、拡張機能として複数のVRRPグループを用いた負荷分散が可能です。
これにより、複数の仮想ルータを運用し、トラフィックを分散させることで、ネットワーク全体のパフォーマンス向上や帯域の有効活用が期待できます。
まとめ
VRRPは、L3スイッチを中心としたネットワークにおいて、ゲートウェイの冗長性を確保するうえで不可欠な技術です。
仮想ルータという仕組みを活用し、物理的な障害が発生してもユーザーに影響を与えずに通信を継続できる点は、非常に大きなメリットと言えるでしょう。
また、VRRPはただの障害対策ではなく、クライアント設定の簡素化やネットワーク管理の効率化、さらにはベンダーによる拡張機能を活用した負荷分散といった幅広い恩恵をもたらします。
こうした利点を踏まえれば、VRRPはスイッチングハブのハードウェア冗長性と組み合わせることで、ネットワーク全体の信頼性を飛躍的に高める鍵となる存在だと言えるでしょう。
今後のネットワーク設計においても、VRRPのようなソフトウェアレベルの冗長化技術は欠かせない要素となります。
物理と論理の両面から多層的に信頼性を高めることで、業務継続性を強固に支えるインフラを構築できます。