TCPが提供する安定した通信の背景には、送受信のバランスを保つための「ウィンドウ制御」という仕組みがあります。
インターネット上では、相手の処理能力やネットワークの状態によって、データがスムーズに流れなくなることがあります。
もし送り手が一方的に大量のデータを送信すれば、受け手のバッファがあふれ、結果として通信の遅延やパケットの損失が発生してしまいます。

そうなったら正常にデータを受け取ることができなくなってしまいますね!
こうした問題を未然に防ぐために、TCPでは「今どれくらいのデータを受け取れるか」を受信側が通知し、それをもとに送信側が送信量を調整します。
この制御の仕組みこそが、ウィンドウ制御です。
それでは、ウィンドウ制御の基本から、その応用や関連する用語について詳しく見ていきましょう。
ウィンドウ制御
TCPでは、1パケットごとにACK(確認応答)を待ってから次のパケットを送ると、RTT(ラウンドトリップタイム)の影響で通信効率が大きく低下します。
※RTT(ラウンドトリップタイム)とは、データを送信してからその応答(ACKなど)が返ってくるまでの往復にかかる時間のことを指します。
たとえば、あなたがTCP通信でサーバーにデータを1つ送信し、そのサーバーから確認応答(ACK)が返ってくるまでに100ミリ秒かかったとしたら、RTTは100ミリ秒です。
特に長距離通信や混雑したネットワーク環境では、応答待ちの時間が積み重なり、全体のスループットが著しく制限されます。
ウィンドウ制御の仕組み
この問題を解決する仕組みが「ウィンドウ制御」です。
ウィンドウ制御では、送信側がACKを待たずに複数のパケットをまとめて送信できます。



これにより、RTTによる待ち時間を減らし、回線の使用効率を大きく向上させることが可能になります。



高速な通信を実現する技術なんですね。
たとえばRTTが100ミリ秒で1パケットずつしか送れない場合、1秒に最大10パケットしか送れません。
しかし、ウィンドウサイズを10パケット分に設定すれば、ACKを待たずに10パケットを一度に送信できるため、スループットは飛躍的に向上します。
ウィンドウサイズの意味と語源
ウィンドウサイズとは、TCP通信において送信側がACK(確認応答)を待たずに一度に送信できるデータ量の上限を示す重要な指標です。
このサイズが大きければ、それだけ多くのデータを一度に送ることができるため、通信の効率が向上します。
逆に、ウィンドウサイズが小さいと、送信後すぐにACKを待たなければならず、待機時間が増えて通信が非効率になります。



たとえば、RTT(ラウンドトリップタイム)が長い環境では、1パケットずつ送信してACKを待つ方式では大きな待ち時間が生じ、全体のスループットが下がります。



そこで、ウィンドウサイズを大きく設定すれば、ACKを待たずに複数のパケットを次々と送信できるようになって、待機による無駄な時間が大幅に削減されるということですね。



そういうことです。
「ウィンドウ(窓)」という言葉は、送信可能なシーケンス番号の範囲が視覚的に「窓」としてとらえられることに由来しています。
この“窓”の中ではデータを自由に送信でき、ACKが返るたびにこの窓が前方へスライドし、新たなデータの送信が可能になります。


この動きが、スライディングウィンドウと呼ばれる仕組みと直結しており、通信の順序性と効率性を両立する鍵となっています。



スライディングウィンドウについては後述します。
なお、ウィンドウサイズは固定ではなく、通信中に状況に応じて変化します。
受信側のバッファ状況やネットワークの状態を踏まえて、送信側はウィンドウサイズを調整しながら最適な送信を行います。
この柔軟な制御が、TCPの信頼性と効率性を支えているのです。
スライディングウィンドウの仕組み
スライディングウィンドウは、TCPのウィンドウ制御の根幹となる重要な仕組みで、送信側と受信側が効率よくデータのやり取りを行うための流れを制御します。



この仕組みにより、送信側は逐一ACKを待つことなく、連続してパケットを送り出せるようになります。
具体的には、送信側は「送信ウィンドウ」と呼ばれる範囲内にあるデータを送信できます。
このウィンドウには、すでに送信されたがまだACK(受信確認応答)が返ってきていないデータが含まれます。
新しくデータを送信するためには、このウィンドウの外にある領域にスライドさせる必要があります。
つまり、ACKが返ってくることで、ウィンドウが前方にずれ、新たなパケットの送信が許可される仕組みです。
たとえば、ウィンドウサイズが4パケット分に設定されている場合、最初に4つのパケット(#1~#4)を送信できます。


その後、最初のACKが返ってきたとします。するとウィンドウが1つ前進し、次に送信可能なパケット(#5)を1つ追加で送ることができます。


ACKが返るたびにこの操作が繰り返され、ウィンドウが「スライド」していくことから、この名称がついています。
この仕組みのメリットは、RTT(ラウンドトリップタイム)による待機時間を減らし、送信の連続性を保てることです。
パケットごとにACKを待っていた場合、長距離通信などではその間に無駄な時間が発生しますが、スライディングウィンドウを使えばそれを回避できます。



また、この仕組みは受信側の状況にも対応可能です。
受信側がデータ処理に時間がかかっているときやバッファが満杯になりそうな場合は、ウィンドウサイズを縮めて送信側に通知することで、データの流れを一時的に緩めることもできます。
こうした動的な調整によって、TCPは混雑(輻輳)にも強く、信頼性の高い通信を実現できるのです。
スライディングウィンドウは、TCP通信におけるスループットの向上と安定性の確保の両立を支える非常に重要な技術です。
MSSとの関係
このウィンドウサイズの初期値は、MSS(Maximum Segment Size:最大セグメントサイズ)の整数倍で設定されます。
MSSとは1パケットで送ることができる最大のバイト数を指し、通常はMTU(最大転送単位)からTCPヘッダとIPヘッダのバイト数を差し引いた値となります。
たとえば、MTUが1500バイトで、TCPヘッダが20バイト、IPヘッダも20バイトの場合、MSSは1460バイトになります。



MTUについてはこちらの記事で学習しましたね。


MSSは、ネットワーク上で分割(フラグメンテーション)されることなく1回で送信できるデータの最大量を示すため、適切な値に設定されることでパケットの再構成に伴う負荷やオーバーヘッドを防ぐことができます。
したがって、ウィンドウサイズをMSSの倍数とすることで、効率よくネットワークリソースを使いながらデータのやりとりが可能になるのです。
また、通信中にネットワーク条件が変化する場合でも、MSSをベースにしたウィンドウサイズの調整は柔軟に対応できる利点があります。
高速かつ安定したデータ転送を実現するうえで、MSSとウィンドウサイズの関係性は極めて重要です。
フロー制御としてのウィンドウサイズ通知
通信中、ウィンドウサイズは固定ではなく、受信側から送信側へリアルタイムで通知されます。



これがTCPにおける「フロー制御」の一部です。
受信側は、自身のバッファ容量をもとに、今どれだけデータを受け取れるかを「ウィンドウサイズ」として通知します。
もしバッファに空きがなければ、「ウィンドウサイズ=0」と通知され、送信側は一時的にデータの送信を停止します。



余裕が無いときは、受け取りをストップすることができるんですね。
逆にバッファに余裕があれば、より多くのデータを送れるようになります。
また、フロー制御はTCPが安定した通信を維持するための基本的な機能でもあり、送信側と受信側のペースを自動的に調整する役割を担っています。
この仕組みにより、パケットロスを未然に防ぎ、ネットワーク帯域の無駄な使用を抑えることができます。
信頼性への貢献
このような動的な調整により、ウィンドウ制御は単なる通信速度の最適化だけでなく、信頼性の向上にもつながります。
送信側が受信側の能力を超えてデータを送りつけることを防ぎ、バッファオーバーフローやパケットロスを回避できるのです。
さらに、TCPはデータの順序や正確性を保証するための仕組みを備えており、ウィンドウ制御はその中核を担っています。
たとえば、途中でパケットが欠けた場合でも再送処理を行い、適切な順序で受信できるようにします。



こうした仕組みがあるから、TCP通信は高い安定性と効率性を両立できるんですね。
音声通話や動画配信など、遅延や損失に弱いアプリケーションでもスムーズな通信が可能となるため、ウィンドウ制御はTCPにおける極めて重要な機能といえるでしょう。
まとめ
ウィンドウ制御は、TCP通信において安定性と効率を両立させるために欠かせない制御機構です。
受信側は、自身の処理能力やバッファ状況に応じたウィンドウサイズをACKパケットで送信側に伝えることで、送信量の調整を促します。
これにより、送信側は受信側の状況を的確に把握し、無理のない範囲でデータを送信することができるのです。



また、ウィンドウ制御の役割は単なる「送信量の制限」にとどまりません。
ウィンドウ制御はネットワークの混雑回避や通信の安定性確保、さらにはパフォーマンスの向上にも直結する高度な調整機構でもあるのです。
TCPが高い信頼性と柔軟性を備えた通信プロトコルとして広く使われている背景には、このような洗練された仕組みの存在があるのです。